異議あり！
介護保険のことが盛んにとりざたされているがいまいち実感の伴わぬことである。先年父が寝たきりの状態になったとき、市から保健婦が来てくれていろいろ世話になった。その私にして、この感覚だから、身近に年寄りのいない人は、さっぱりわからんのではないか。
父もすでに亡くなって、残った母は介護の疲れもとれ日々達者。介護認定会とか要介護度判定会とかが、もし母を判定したら、彼女はきっと介護に該当しないだろう。この法案、わが家に関係あるのかしら。と、文句は言いつつも、やがては、わが身のことでもあると思うから、新聞を念入りに読んでみる。が、やはり知りたいことは書いてない。
ぜいたくかもしれぬが、私は老人ホームに入るなら、海辺のホームに入りたい。歩いて四〜五分のところに竿を出せる磯があれば最高。竿を持てぬほどモウロクしたら、自室の窓からボンヤリ海をながめてすごすことだってできる。だれかこんなホームを知らないだろうか。
私のかみさんは草や花が好きだから、彼女は花畑のあるホームに入りたいに違いない。右の窓からは海が見えて、左の窓からは花畑が見えるホームに決めよう。右のベットには私が、左のベットにはかみさんが寝たきりになればいい。
法律には、いろいろやっかいなことがあるようだ。介護施設が足りない。要介護度判定が難しい。掛け金が高い。問題点はだいたいこの三つとみた。察するところ、当局のおえら方の頭には、入所する当の老人の好みのことなどは一切眼中にないらしい。私は特に海辺が好みだといくら申し立ててもだれも聞いてくれそうにない。
年寄りは頑固で融通が利かないものと大昔から決まっている。
若い衆が「じいちゃん、あんたは、このホームに入っとれ」と言っても、その年寄りが、「わしゃ嫌じゃ」と言うたらどうするのだ。それでも嫌いなホームへ押し込みますか。
どうやら、そういうことらしい。
◇ ◇ ◇
ところで、
職業選択の自由というのが憲法で定められている。だからだれでも総会屋になった方がいいに決まっている。会計士とか税理士とかには国の免許が必要だけど総会屋になるには免許もコネも不用だ。株主総会に出席して、大きな声で、「異議なし！」と言うだけで何十億円かたちどころに転がり込む。だれだって総会屋になりたい。
“異議なし！”
これ、イエスマンの言葉ですよ。世の中は、張り子の虎と、“異議なし！”のエンドレステープで出来ています。
海に向かって“異議なし！異議なし！”と叫んだら、魚々がぞろぞろ先を争ってクーラーの中に転がり込みますか？ そんなバカなことはない。何かが転がり込むのは、世間と言う名の海の場合だけですわ（またまた、企業の総会屋への利益供与、が報じられて）。